人の命って・・・
ラ・クリニカは開院19周年を迎えました。これも、何度もご来院頂いてる多くの患者様のおかげと、スタッフ一同、心から感謝をしております。
ラ・クリニカは開院19周年を迎えました。これも、何度もご来院頂いてる多くの患者様のおかげと、スタッフ一同、心から感謝をしております。
僕が医者になってから外科と美容外科で(産婦人科や整形外科の手術を手伝ったこともありますが(^^ゞ)いったいどれぐらいの数の手術をしてきたのか(?_?)自分でも想像がつきません。チリにいた2年間に腹腔鏡下の手術を多くしましたがそれだけでも2千以上はあったので、小さい手術まで含めるともう全く想像がつきません。でもそんな多くの手術の中でも忘れられない手術がいくつもあります。
その一つは外科の時に執刀した直腸癌の手術です。手術としては今までにしてきた中でも特に会心の手術だったと思います。いつものことですが一心不乱に手術をして、手術が終了し「ありがとうございました」と僕が言った時に、時間は忘れましたが、直接介助の看護婦さん(※注1)に「手術時間◎時間◎分、出血量17㏄、お疲れ様でした」と言われて我に返ったことしか覚えていません。それぐらい集中出来ていました。
手術時間も出血量も会心の結果でした。術後の病理検査(※注2)でも癌は完全に取れていてリンパ節転移なども全くなく、月に1回ぐらい外来に来てもらうだけで、抗癌剤などの追加治療も必要ありませんでした。その患者さんは小柄で可愛い感じの気さくなご婦人でした。癌についてもうほとんど心配がなかったので、外来で診察する時も、世間話の方が多いぐらいでした。
それから数ヶ月たったある日、外来にその患者さんと僕の外来で仲良くなった別の患者さんが血相を変えて飛び込んできました。そして「◎◎さんが亡くなりました」と僕に言うなり泣き崩れました。手術は完璧だったはずなのにいったい何が!?と僕はその言葉を理解することが出来ず、頭の中が真っ白になりました。死因はもちろん癌ではなく、脳卒中だったそうです。
癌に対しては完璧な治療をしたつもりだったのに、その患者さんに人生を全うさせてあげられなかったのです。
その時僕の頭に浮かんだのは、ある天才外科医の漫画の中のセリフでした。恩師を助けられず、悲嘆に暮れる天才外科医の心の中でその恩師がこう言いました。「医者が人の命をどうのこうの出来るなんておこがましい」。その時の悲しさ、悔しさ、空しさは今も忘れられません。人の命って何だろう・・・医者が出来ることって何だろう・・・そんなことを考えながら病院の中を走り回っていました。
※ 注1:手術中に医者にメスなどの器械を手渡す看護婦さんです。
※ 注2:癌の手術では癌の近くのリンパ節なども全部取って、それを病理の医師が顕微鏡で見て、取り残しがないか、転移がないかなどを調べて術後の追加治療を決めるんですよ。